大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(う)512号 判決

被告人 鎌形栄

〔抄 録〕

原判決は、被告人は昭和三十三年一月九日午後七時三十分頃判示旅館川の家こと御子柴公意方に投宿し、同家女中大塚初枝に対し、所持金がなく代金支払の意思もないのにかかわらずあるように装つて酒肴を注文し、同女をして代金は出立の際必ず支払を受け得るものと誤信させ、因つて同時刻から翌十日午後五時頃までの間同所において、同女から酒三十七本料理五品スキ焼三人前すし二人前その他代金合計七千百一円相当を提供させ、その場でこれを飲食して騙取したと認定し、刑法第二百四十六条第一項を適用処断しているのである。そして本件起訴状には公訴事実として、被告人は代金支払の意思も、能力もないのに之あるものの如く装い、昭和三十三年一月九日飯能市大字飯能三百九番地旅館業川の家こと御子柴公意方に到り翌十日まで同旅館に宿泊し、同旅館女中大塚初枝に対し酒肴を注文し、同女をして即時代金の支払があるものと誤信させた上、酒肴及びすし等を提供させて之を飲食し、因つて七千六百一円相当の宿泊酒肴代の支払を免れ以て財産上不法の利益を得たものであると記載し、罰条として刑法第二百四十六条第二項と記載してあるのを、原審裁判官は原審第一回公判において、検察官に対し、右訴因中「酒肴及びすし等を提供させて」以下を「酒肴及びすし等(七千百円相当)を提共させてその場で飲食騙取したものである」と、罰条の記載「刑法第二百四十六条第二項」を「刑法第二百四十六条第一項」と各変更を命じた経緯に鑑みると、原判決は被告人が所持金なく代金支払の意思もないのにかかわらずあるように装つて酒肴を注文し、判示のような酒及び料理等の飲食物を提供させて飲食したことを以て刑法第二百四十六条第一項の詐欺罪と認定した趣旨であることは明らかである。然るに原判決が事実認定の証拠として挙示した証拠中、大塚初枝の司法巡査に対する供述調書によると、被告人が注文して提供させた飲食物は、酒四十一本(四千百円)すきやき小物付三人分(九百円)料理(三百二十円)小物(四百四十円)計五千七百六十円であり、御子柴公意の司法警察員に対する供述調書によると、被告人が注文して提供させた飲食物は、酒三十七本(三千七百円)うなぎ酒四本(六百円)すきやき三人分(九百円)料理(四百五十円)すし二人分(二百四十円)やき肉(百二十円)小物(百円)計六千百十円であつて、原判決が補強証拠として挙示した右二個の証拠の間には互にくいちがいがあり、そのいずれによつても原判示事実のように代金合計七千百一円相当の飲食物を提供させてこれを飲食した事実を認めることができないばかりでなく、記録を調べてみても原判示に添う証拠は存しないのである。然らば原判決は判決の理由にくいちがいがある場合に該当し破棄を免れないから、論旨は結局理由がある。

(大塚 本田 渡辺辰)

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